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今日はとことんついていないらしいな。
溜め息をこらえ、テーブルに荷物を置いた。
昼前でも、ファストフード店の席は9割方埋まっていた。俺たちと同じように、早めに昼食を取ろうとする人は多いらしい。
3人で座れる席を探し店内を見回して、ちょうど目に付いた空席に近付いたとき、隣の席に座る人物が目に飛び込んだ。
今日2度目の茶髪。
向こうも俺たちに気付いて、手を挙げた。その人懐っこい笑顔を見なかったことにして、そのままスルーしてしまいたい衝動に駆られる。
運が悪いというか、なんというか…。
「さっきのお兄さんだよね」
俺を見上げるヒバリに頷いて、止まりかけた足を空席へと進ませた。
「また会ったな」
苦笑しながら声をかけると、白木も同じような笑みを浮かべた。
「会っちゃう時は会っちゃうんだって」
その言葉に頷きながら、隣の席を眺めた。男女数人が昼食をとっている。
「さっきは1人でいたけど、友達と来てたんだ?」
「あぁ、中学の時のね」
おまえはどうなんだ、というように俺を見る白木から目をそらして、テーブルに置いていた荷物を椅子へと動かした。
そして、4人席の同じ側に景とヒバリを並んで座らせるために、ヒバリから大き目の荷物を受け取る。
「お昼買って来るけど、戒は何にするの?」
俺と白木の会話が途切れるのを待っていたのか、景の控えめな声が聞こえた。
白木のものと思われる視線を感じながら、「ハンバーガーでいい」と返事をして、椅子に座る。
「味は?」
「…適当に選んで」
俺を見る景の目が、少し細くなる。けれど、何も言わずにヒバリを促して歩き出した。
景とヒバリが離れていくのを少しの間眺めて、小さく溜め息をついてから白木に向き直った。
「で、何から聞きたい?」
白旗を揚げた俺に、白木は可笑しそうに笑う。
「降参、って感じの声に聞こえるんだけど」
「隠しようがないだろ」
3人で遊園地なんかに来てるのを見られたら、どうしようもない。
「詳しく聞くのは今度でいいや。今は1つだけ教えてくれればいいんだけど…」
一度ジュースを飲んでから、白木は続けた。
「三門、好きなハンバーガーの味は?」
「……は?」
「白木、おまえふざけてる?」
数秒おいて、俺は質問には答えずに問い返した。
俺と景の話と、ハンバーガーの味のどこに関係があるのか全く分からない。
「ふざけてないって。いいから教えろ」
ジュースを飲むのを眺めながら、また溜め息が出た。
「…照り焼きとか、普通のチーズとか」
この人懐っこい笑顔のクラスメイトは、何を考えているんだろうか。
「ふーん」
「…それだけ?」
「今はね」
こいつの笑顔が悪魔の笑いに見えて、今日何度目か分からない溜め息がこぼれた。
数分後、昼食を買いに言った2人が戻ってきた。
俺の前に置かれたのは、ポテトとジュース、そして紙に包まれたハンバーガーが2種類。
「なんで2個?」
片方のハンバーガーを手に取りながら、景に聞いてみる。
普通は1個だよな。
「…1個じゃたりないと思ったから」
こっちを見ずに、景はそんな簡潔な答えを返してきた。
「……」
そんなに大食いじゃないんだけど。
内心、そうつぶやいて、食べ始めた。
口の中に広がる照り焼きの味に、あれ、と思う。もう一つのハンバーガーの包み紙を見て、さっきの白木の質問の意味が分かった気がした。
―――三門、好きなハンバーガーの味は?
―――…照り焼きとか、普通のチーズとか
隣の席に視線を移すと、2つの味が何か分かったのか、苦笑する白木と目が合った。
俺が今食べているのは照り焼きバーガーで。
もう一つ、テーブルに置かれたままの方の包み紙には「チーズバーガー」の文字が並んでいた。
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