12.
                                        

派手な車体が俺たちの前に停車した。それに乗り込むと、係員が安全の確認をして回る。
そして、「いってらっしゃいませ」という係員の声に見送られて、重そうな車体はゆっくりと動き出した。
ガタン、ガタン、と言う音と共に頂上へと向かう途中、ヒバリはずっと下を見下ろしていた。
「いた!景ちゃん発見」
何を見ているのかと思ったら、景を探していたらしい。
「ほら、あそこ!」
俺の位置からは、この車体が邪魔で見えない。
「あれ?景ちゃん、誰かと一緒にいる…」
もう一度見下ろしたとき、ヒバリが呟くように言った。
「え?」
どんなヤツがそばにいるのか尋ねようとしたとき、ちょうど頂上に着いた車体がほんの数秒停車した。
それに気付いたヒバリが「う…」というような声を上げた瞬間、一気に急降下してそのスピードのまま園内を走り抜けていった。

ほんの数十秒後、がたんと言う音と共に停車した。
隣のヒバリを見ると、ポカンとしたまま動かない。そんなヒバリを促して降りると、焦れた気分で出口へと向かった。
急降下する直前の、ヒバリの一言が気になってしかたない。
―――景ちゃん、誰かと一緒にいる…
今はゴールデンウィークなんだし、たまたま知り合いと会っただけかもしれない。
そう思う一方で、数日前のように知らない人に声をかけられているんじゃないかとも考えてしまう。
「景が一緒にいた人、知り合いみたいな感じだった?」
さりげなくヒバリに聞いてみたけれど、遠目だったせいでよく分からない、という返事が返ってきた。
そうだよな…。
小さく溜め息をついて、歩くスピードを少し速めた。


出口から入り口の方へ戻ると、ヒバリの言うとおり、景は誰かと一緒にいた。
茶髪の背の高い男が、俺たちに背を向ける形で立っている。その後姿に、俺は見覚えがあった。
高校の同じクラスで、茶髪の…。
つい最近、景のことが好きなのかと、俺はこいつに聞いたばかりだ。
歩く速度を落として近寄っていくと、景が俺たちに気がついた。
景の反応に、そばにいる男も振り返る。
俺を確認したそいつは、驚いたように目を見開いて、すぐに怪訝そうな表情を浮かべた。
何でおまえがここにいるんだ、と目が言っている。
「戒くんの友達?」
どう説明しようかと考える俺をよそに、ヒバリが尋ねてくる。
「…そうだよ」
ヒバリに移した視線を白木に戻して、小さく溜め息をついた。
「白木も…来てたのか」
どう切り出していいのか分からず、とりあえずそう言ってみた。
「おまえこそ、なんで三門さんと一緒にいるわけ…」
俺と景を交互に見て、最後にヒバリに視線を移す。この小さい子は誰だ、と言う感じで。
こんなふうに鉢合わせしてしまったら、誤魔化せるわけがない…。
「えっと…景は俺の義姉で、その子は景の弟」
俺の説明に、白木は「はぁ?」と言う表情に変わる。
これが漫画なら頭の上に?が浮かんでるんだろうな、なんて考えながら曖昧に笑ってみせた。

あとでちゃんと説明するからと、そこで白木とは別れた。
気が、重い。
義姉弟だということを説明するのは簡単だけど、なんで隠してたのかと聞かれたら…。なんて返事をすればいいんだ。
白木が景を好きなことを知りながら、黙っていたわけで。
景やヒバリに気付かれないように、小さく溜め息をついた。
本当に、気が重い。

重い気分を笑顔で隠して、ヒバリと、ものによっては景も一緒に、いくつかのアトラクションを制覇した。
そのあと、のどが乾いたと言うヒバリの言葉で、少し早いけど昼食をとることにした。
ちょうど昼時になってしまえば、混んで大変だろうから。