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ソファーに座って、俺と景はヒバリの話を聞いていた。
学校で何があったとか。他愛のない、毎日のこと。
話したいことが山ほどあるのか、一生懸命に話すヒバリの口は止まることを知らない。
俺には兄弟なんていないけど、ヒバリみたいな弟なら、いてもよかったかもと思う。
あっという間に時間は過ぎて、ヒバリは帰ると言って立ち上がった。
「せっかくきたんだから、泊まっていけば?」
帰り支度をする背中に声をかけると、ヒバリは俺の顔を見て首を横に振った。
そばに立つ景を見ても、ヒバリを引きとめようとはしない。
考え事をするような表情でヒバリを見る景を、少し不思議に思いながら、玄関に向かった。
「じゃーね!」
リュックの肩に掛ける部分を握り締めて、笑顔を浮かべた顔を俺と景に向けた。
気をつけてねと言う景にうなずいて、改札を抜ける。
エスカレーターでホームに上っていくヒバリに手を振って、その姿が見えなくなってから、俺たちは黙って駅を出た。
そのまま会話もなく歩いて、家へと向かう。
ヒバリがいなくなって、一気に空気が変わった気がする。
景の隣で黙って歩くのは居心地が悪い。話しかけようと思っても、話題がない。
今朝ヒバリが家に来る前の、あのそわそわして落ち着かない気分が戻ってきたみたいだ。
せっかく景と普通に話せるようになった気がしたのに。このまま、あまり話をしないような関係に戻るんだろうか…。
景に気付かれないようにそっと溜め息をついたとき、アクセサリーショップが目に入った。
昨日、白木と歩いているときに景を見つけた店。
アクセサリーか何かを光にかざして微笑んだ景を思い出して、チラッと隣を盗み見た。
そういえば、5月は…。
久しぶりに会ったヒバリは、また少し背が伸びていた。
また少し男の子っぽくなった気がする笑顔も、元気でいる証拠だと思う。
お母さんにも知らせておこう。きっと、あたしと同じように安心すると思うから。
駅からの帰り道を戒と並んで歩きながら、今日のヒバリの顔を思い浮かべた。
コロコロとよく変わる表情。いろんな話をして、たくさん笑っていた。
あたしも戒といつもなら考えられないくらい話をしたし。
でもヒバリが帰って、またあたしと戒に会話はなくなった。
ヒバリが来る前は、戒との沈黙はそんなに気にならなかったのに。今は、なんだか落ち着かない。
「…何か、ほしいものない?」
ちょうどアクセサリーショップの前を通りかかったとき、戒が出し抜けにそう言った。
ちょっと驚いて隣を見上げると、困ったように笑う戒と目が合った。
「いきなり、なんで」
「だから…景の誕生日だろ、もうすぐ」
「そうだけど…」
ゴールデンウィークが終われば、すぐに誕生日がきて18歳になる。
だいぶ前に誕生日の話をしたような記憶はあるけれど、戒が覚えているとは思わなかった。
「今も食事の世話してもらってるから…そのお礼も兼ねて、さ」
あたしから目をそらして、付け加えた。
戒の横顔に浮かぶ困ったような表情を見て、あぁ、と思う。
本当は困っているんじゃなくて、照れているのかも知れない。
「昨日この店で何か見てただろ。アクセサリーとか…」
目の前の店をあごで示す。
あたしの返事を待たずに話すのも、照れているせいなのか。
店の中を覗くふりをして、戒に気付かれないように小さく笑った。照れている戒なんて、初めて見る。
「…じゃあ、ちょっとこのお店に入っていい?」
あたしがうなずくと、戒はホッとしたように笑った。
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