[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
09. しばらく、二人を眺めていたけれど。 いつまでもそうしていたってしかたがないから、ソファーから立ち上がった。 きっと、景とヒバリは久しぶりに会ったんだろうし。 俺は邪魔にならないように、さっさと自分の部屋に行こう。 そう思って、今度こそリビングを出ようとした俺に、ヒバリが声をかけてきた。 「あれ?戒くん、どこ行くの?」 「自分の部屋に戻ろうと思ってさ」 ゆっくりしていきなよ、と笑いかけると、ヒバリが近寄ってきた。 小走りでそばまで来ると、俺を見上げる。 「あのね、僕、戒くんにお願いがあるんだ」 なんだ、と思いながら、腕を引かれてソファーまで引っ張られた。 結局、今立ったばかりのソファーに逆戻り。 「お願いって?」 苦笑しながら、ヒバリを見る。 本当、ヒバリは景の弟なんだって実感した。 景と同じように、ヒバリに対しても、俺は上手く自分のペースが保てないらしい。 俺が尋ねると、神妙な顔をして口を開いた。 「戒くん、ジェットコースター乗れる?」 ヒバリの表情と質問がチグハグな感じがして、ちょっと笑ってしまった。 キッチンに目を向けると、俺たちの様子を見ていた景と目が合った。 そして、困ったような笑みを返される。 「乗れるよ」 俺の返事に、ヒバリの表情がふっと緩んだ。 「よかったー!」 嬉しそうな声を上げて笑う。 ヒバリの表情は、コロコロとよく変わる。そこが景とは違うところなんだけど。 「僕ね、遊園地に行きたいんだ。ジェットコースターに乗りたいの!」 あぁ、そういうことか。 「戒くんも一緒に行ってくれる?」 首をかしげるようにして、俺を見上げてくるんだけれど。 俺と、一緒に乗る気でいるんだよな。ヒバリは。 でも…景は? 「行くのはいいんだけど…、景とは乗らないのか?」 俺とじゃなくて、景と乗ればいいのに。 景の方に視線を走らせると、どこかばつの悪そうな表情をして、ヒバリを見ている。 「え?だって、景ちゃんは…」 俺の反応に、ヒバリの方が驚いた顔をする。 パッと景の方を向いて、また、俺を見て。 何度か俺と景を交互に見ると、えっとね、と呟くように言った。 「景ちゃんて、ジェットコースターとか、苦手なんだよ」 「……苦手…」 景に、苦手なものなんてあったのか。 絶叫系に乗れないことよりも、苦手なものがある、ということに驚いた。 誰にでもダメなものはあるに決まってるんだけど。 俺は、景には苦手なものなんてないような、そんな勝手な印象を持っていたから。 「だって…ダメなものはダメなのよ…」 俺が驚いた表情で見ていたからか、景は少しすねたような顔で呟いた。 「ねぇ、戒くん。いいでしょ?3人で遊園地行こうよ」 ちょっと笑いながら、ヒバリにうなずいて見せた。 「いいよ。ゴールデンウィーク中に行こうか」 すねたような表情も。 嬉しそうにヒバリと話す表情も。 困ったように笑う表情も。 楽しそうに笑う声も。 ヒバリが来るまで俺が知らなかった、景のたくさんの顔。 俺の知らない景を見れたことを、ヒバリに、心の中で感謝した。