Strawberry Jam A  |
「このトリュフとクッキー持って帰っていいよね。悠は食べられないし…」
知架と半分ずつに分けていたらしいお菓子を片付けながら、りんが声をかけてくる。
「りんが食べるんならいいよ」
「…どういう意味?」
不思議そうな顔のりんに、何も言わずに、ただ笑顔を返す。
春乃崎とかにあげたりしたら怒るよ、なんて言ったら、りんはどんな顔をするだろう。
既製品ならあんまり気にしないけど。手作りをあげさせるほど心が広いわけじゃないからね、俺は。
「…あぁ、人にあげちゃダメってこと?」
少し考えている様子だったりんが、おかしそうに言う。
その答えに、また何も言わずに笑顔を返した。
笑うだけで何も言わない俺に、りんはまた少し考えるような素振りを見せて、手に持ったお菓子に視線を落
とした。
「全部食べたら太っちゃうし…、どうしようかなぁ」
「太らないから自分で食べて」
まじめな顔を作って、すぐに切り返す。
そして、2人でほぼ同時に吹き出した。
「景士兄さんにはあげていいでしょ?」
ひとしきり笑って、落ち着いたところでりんは兄の名前を出した。
「どうぞ」
お兄さんにならあげていいよ。あの人を敵に回すようなことはしたくない。
「あ、ちょっと待って」
お菓子を入れた箱のふたを閉めようとするりんの手を止めて、中からクッキーを一つ取り出した。
チョコチップが混ぜ込まれたクッキーから、りんに視線を移す。そのきょとんとした顔に笑いかけた。
「せっかくりんが作ったんだから、味見くらいしないとね」
サクッといういい音がして、口の中にチョコの味が広がっていく。
「…やっぱり甘い」
当たり前のことを口にすると、りんはちょっと笑って、自分の分もクッキーを取り出した。
「売ってるのよりは甘くないと思うんだけどな」
悠がクッキーを食べるのを見て、あたしも食べてみる。
知架ちゃんと相談して、甘さを控えめにして作ってみたんだけど…。やっぱり悠には甘かったみたい。
「でも、美味しいと思うよ」
そう言ってくれる悠の左手には今淹れていたコーヒー。右手には食べかけのクッキー。
「ありがとう」
甘いものが苦手でも、ちゃんと食べてくれたことが嬉しかった。
食べてくれて、ありがとう。
口には出さなかったけど、心の中で呟いた。
「どうしようかなぁ…」
悠の家から帰る途中、何か参考にならないかとお店をまわって見ることにした。
さすがに、あのクッキーだけってわけにはいかないし。
どこもバレンタインの派手な飾り付けがされていて、普段とは違う雰囲気。
洋菓子店の前を素通りして、小さく溜め息をついた。
「あれ?」
周りを見回して、ふと目に留まったのは赤くて大粒のイチゴ。
イチゴのほかにも、たくさんの果物が並んでいるお店があった。
「果物…」
お菓子がダメなら果物でもいいかも。
そのお店に入ってみると、家で食べるようなお手ごろ価格から、贈答用のちょっと高価なものまでいろいろ。
なにこれ、っていうような珍しい果物もあって、見てるだけでも面白い。
果物を候補の一つにすることにしてお店を出ようとした時、出口のそばの棚に小さなビンが並んでいるのに
気がついた。
小さいけれど、かわいいラッピングがされたそれを手にとって眺めてみる。
ちょっと考えた後、ビンを棚に戻して、あたしはまた店内に戻った。
つづく >>
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