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「カラオケ拒否権やるから」
「拒否権は誰にでもあるだろ」
「じゃあ、授業ノート1週間分」
「秋吉の字は汚いから遠慮する」
「昼飯1週間分おごるってのでどうよ」
「食いたい物は毎日違うからな。自分で買ったほうがいい」
「他校のかわいい子紹介するぞ」
「それは捨てがたいけど、おまえのいとこに会う方が嫌だな」
次々に繰り出される秋吉の言葉を、容赦なく切り捨てる。
さっきからこれの繰り返し。
昼休みの半分を潰してまで俺に頼む秋吉が、少し哀れになってきた。
でもな。俺は本当に秋吉のいとこが苦手なんだ…。
たぶん学食に行っていた筒井が隣の席に戻ってきて、不思議そうに俺たちを見る。
俺と目が合うと、昨日公園で見たような冷たい目になって、すぐに視線を逸らした。
「……」
まだあきらめない秋吉の声を聞き流して、筒井の横顔を眺める。
昨日転校してきたばかりだけど、筒井はもう一緒に行動する友達が出来たようだ。
話しかけられれば愛想よく返事もするし。
俺には、今みたいに睨むような目を向けるけど。
やっぱり昨日の公園のことが悪かったのか。アレで嫌われたのかもしれない。
でもなぁ。昨日だって、俺のこと簡単にあしらうこともできたはずだろ。
俺は「いつまでそうしてんの?」って話しかけただけなんだしさ。
「りっちゃーん」
俺が話を無視して別のことを考えているのが分かったのか、秋吉が情けない声を出した。
「その呼び方やめろって言ってるんだけどなぁ、秋吉クン」
作り笑いをして言ってやると、へらっと笑って誤魔化した。
そしてまた話を戻す。
いい加減、俺も面倒になってきた。
「そうだな…」
秋吉の顔から、隣の席に視線を移す。教科書を机に出した転校生が、俺の視線に気付いたようにこっちを
向いた。
「筒井サンも呼べたら、行ってやるよ」
怪訝そうな表情の転校生にニヤッと笑ってから、秋吉を見る。
「筒井さんも?」
驚いたように俺と筒井を交互に見る秋吉に、うなずいてやる。
筒井なら、秋吉に頼まれても十中八九拒否するだろうし。
秋吉には悪いけど、やっぱり俺は行きたくないから。それに土曜はゆっくり眠りたい。
俺の意図が分かったのか、秋吉は渋い顔をした。
「で、何で行くことになってんだよ」
額を手でおさえて、机にひじを突いた。
視線だけを隣に向けると、俺に劣らず不機嫌な目に睨み返される。
「おまえなら絶対行かないと思ったのに」
放課後のざわめきのおかげで、誰も俺たちの話など聞いてはいない。
「何であたしが文句言われなきゃいけないわけ?」
細めた目はそのままに、口角だけを上げて笑う。
「自分が被害者みたいな顔しないでくれない?むしろ、巻き込まれたあたしの方が被害者なんだから」
まとめた教科書をドンと机に置き、鞄の口を開けた。
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