4.                                           

  「カラオケ拒否権やるから」
  「拒否権は誰にでもあるだろ」

  「じゃあ、授業ノート1週間分」
  「秋吉の字は汚いから遠慮する」

  「昼飯1週間分おごるってのでどうよ」
  「食いたい物は毎日違うからな。自分で買ったほうがいい」

  「他校のかわいい子紹介するぞ」
  「それは捨てがたいけど、おまえのいとこに会う方が嫌だな」

  次々に繰り出される秋吉の言葉を、容赦なく切り捨てる。
  さっきからこれの繰り返し。
  昼休みの半分を潰してまで俺に頼む秋吉が、少し哀れになってきた。
  でもな。俺は本当に秋吉のいとこが苦手なんだ…。
  たぶん学食に行っていた筒井が隣の席に戻ってきて、不思議そうに俺たちを見る。
  俺と目が合うと、昨日公園で見たような冷たい目になって、すぐに視線を逸らした。
  「……」
  まだあきらめない秋吉の声を聞き流して、筒井の横顔を眺める。
  昨日転校してきたばかりだけど、筒井はもう一緒に行動する友達が出来たようだ。
  話しかけられれば愛想よく返事もするし。
  俺には、今みたいに睨むような目を向けるけど。
  やっぱり昨日の公園のことが悪かったのか。アレで嫌われたのかもしれない。
  でもなぁ。昨日だって、俺のこと簡単にあしらうこともできたはずだろ。
  俺は「いつまでそうしてんの?」って話しかけただけなんだしさ。

  「りっちゃーん」
  俺が話を無視して別のことを考えているのが分かったのか、秋吉が情けない声を出した。
  「その呼び方やめろって言ってるんだけどなぁ、秋吉クン」
  作り笑いをして言ってやると、へらっと笑って誤魔化した。
  そしてまた話を戻す。
  いい加減、俺も面倒になってきた。
  「そうだな…」
  秋吉の顔から、隣の席に視線を移す。教科書を机に出した転校生が、俺の視線に気付いたようにこっちを
  向いた。
  「筒井サンも呼べたら、行ってやるよ」
  怪訝そうな表情の転校生にニヤッと笑ってから、秋吉を見る。
  「筒井さんも?」
  驚いたように俺と筒井を交互に見る秋吉に、うなずいてやる。
  筒井なら、秋吉に頼まれても十中八九拒否するだろうし。
  秋吉には悪いけど、やっぱり俺は行きたくないから。それに土曜はゆっくり眠りたい。
  俺の意図が分かったのか、秋吉は渋い顔をした。



  「で、何で行くことになってんだよ」
  額を手でおさえて、机にひじを突いた。
  視線だけを隣に向けると、俺に劣らず不機嫌な目に睨み返される。
  「おまえなら絶対行かないと思ったのに」
  放課後のざわめきのおかげで、誰も俺たちの話など聞いてはいない。
  「何であたしが文句言われなきゃいけないわけ?」
  細めた目はそのままに、口角だけを上げて笑う。
  「自分が被害者みたいな顔しないでくれない?むしろ、巻き込まれたあたしの方が被害者なんだから」
  まとめた教科書をドンと机に置き、鞄の口を開けた。