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俺の予想通り、筒井は秋吉の誘いを拒否していた。
ただ、最初に秋吉から土曜は空いているかと聞かれて、素直に予定はないと返事をしてしまったせいで、
断る口実がなくなった。
俺と同じように、筒井も秋吉に拝み倒されて。結局、首を縦に振ってしまった。
で、筒井が行くなら、と言ってしまった俺は、こうして撃沈している。
筒井が陥落しても、なんとか拒否しようとしたけどさ。
「男に二言はないよな?」と言う秋吉の表情が怖くて、降参した。
秋吉を怒らせたときの怖さは、中学のときに体験済みだ。
「あぁ、そうだ。りっちゃん」
いったん自分の席に戻っていた秋吉が、鞄を掴んで戻ってきた。
「…何」
その呼び方はやめろ、と言う気力もない。
「筒井さんね、土曜は全部律がおごるって条件なら来てくれるんだって。それ、忘れんなよな?」
ニッコリと俺に笑って、次に筒井に「ね?」と同意を求めるように首を傾けた。
少し困ったようにうなずいて、それから俺に向けたその目は、巻き込んだ俺が悪い、と言っているようだった。
「さーて。それじゃ、帰りましょーか」
1人ご機嫌な秋吉に促され、しぶしぶ立ち上がる。
「じゃあね、筒井さん」
筒井に声をかけて歩き出そうとした秋吉が、何かを思い出したように鞄を開けた。
「…律、靴箱のことで待ってて。職員室寄らなきゃいけないんだった」
提出すんの忘れてたー、と鞄から出したプリントをヒラヒラと揺らす。
「あー…、進路調査?」
「うん、それ。おまえ出した?」
「出した」
先に教室を出ていく秋吉を見送って、筒井の方を見た。
今日中に提出するものなのか、薄い水色の紙に何かを書き込んでいる。
そのまま眺めていると、俺の視線を感じたのか、それとも俺が立ち止まったままなのが気になったのか、
書く手を止めて顔を上げてこっちを向いた。
「…何」
「帰んないの?」
「……」
何も言わずに、また視線を机の上に戻してしまう。
その様子を見て、小さく溜め息をついた。
「あのなぁ」
筒井の前の席の机に投げるように鞄を置いて、椅子に横座りした。
「俺、何かした?」
いくら考えてみても、俺に対する筒井の態度が他のやつらと違う理由が分からない。
初めて声をかけたときから、なんか変だった気がする。ある意味、俺だけ特別扱いだよな。
嬉しくないけど。
「……」
少し驚いたような顔をしてこっちを見たけれど、また何も言わずに視線を机に戻す。
話もしたくないってか。
「…ま、いいや」
態度直せとか、そんなこと言う気はないし。
「遊園地さえ終われば、あとは関わらないから」
今度こそ帰るつもりで立ち上がった。
秋吉のやつ、もう靴箱のとこにいるだろうな。プリント提出するだけならすぐ終わるだろうし。
きっと遅いって文句言われるんだろうなぁ。
「……覚えて、ないんでしょ?」
歩き出した俺の耳に、小さな声が聞こえた。
立ち止まって振り返ると、どこか寂しそうな表情の筒井と目が合った。
「何を…」
「りーつー!」
言葉の意味を聞こうとした俺の声は、教室に戻ってきた秋吉にさえぎられた。
「なんでまだ教室にいるんだよ」
「あー…ごめん。ちょっと話してた」
結局、筒井の言葉の意味が分からないまま、文句を連発する秋吉と教室を後にした。
俺は何か、忘れていることがあるんだろうか。
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