2.                                           

  カラオケに行く気にはならなかったけど、することもない。かなり暇。
  家の近くの本屋で新刊コーナーを眺めて。何も面白そうなものがないから、今度は窓際の雑誌コーナーに
  視線を移した。
  「あれ…」
  店の窓越しに、筒井が一人で歩いているのが見えた。
  なんだ。あいつの家、ここら辺なのか。
  「……」
  雑誌コーナーを素通りして、さっさと店を出た。
  俺、かなり暇なんだよな。やることないしさ。
  おまけに筒井は俺の家と同じ方向に歩いて行くし。
  途中まででも、あとをついて行ってみようか。

  前を歩く筒井は、振り向くことなく進んでいく。
  まぁ、振り向かれても困るんだけど。
  公園の手前の曲がり角で、俺は立ち止まった。
  筒井を追いかけるのも、ここまで。この角を曲がって少し行った所が俺の家。
  最初から、家を素通りしてまでついていく気はなかったし。
  車が角を曲がっていってから、歩き出す。
  でも、公園に入っていく筒井が視界に入り、すぐに足を止めた。
  広場を横切って木の下のベンチに座る彼女を眺めたあと、俺はまた歩き出した。


  「いつまでそうしてんの?」
  暗くなってきているせいか、公園に人影は少なかった。公園から出て行こうとしている子供の他は、砂場に
  うずくまっているのが2人だけ。
  「…なんでいるのよ」
  ベンチの横に立つ俺を見上げた筒井は、睨むように目を細めた。
  今朝、教室でにこやかに挨拶をした筒井とは180°雰囲気が違っている。
  「見かけたから」
  そう答えながら、筒井の鞄を挟んだ位置に俺も座った。
  「さっさと帰れば」
  広場へと投げていた視線を、不機嫌な声の方に移す。
  「なんで?」
  俺の返事が気に入らなかったのか、筒井はますます目を細めた。
  「あたしは一人でいたいの。ほっといてよ」
  いや、俺もほっとこうと思ったんだけどさ…。
  一度家には帰ったんだ。着替えて、柄にもなく勉強でもしようかと思ったら、コンビニに寄るのを忘れてたの
  に気付いて。
  家を出てこの公園の前を通ったら、まだこいつがベンチに座ってた。
  俺がそう説明しても、もちろん筒井の表情は和らがない。むしろ不機嫌さが増していく。
  今朝のこともあって、気になってたのもあるんだけどさ。
  寂しそうな表情で座ってたから、なんて言ったら…もっと怒るんだろうな。
  「筒井さんさぁ、みんなの前で挨拶してたときと雰囲気違ってんだけど」
  「……」
  「今朝のにこやかさはどこ行ったよ」
  「……」
  「おーい」
  「……うるさい」
  低い声で言って、横に座る俺をきつく睨みつけた。
  「あたしにかまってないで、さっさと帰りなさいよ」
  「おまえも帰ろうぜー。けっこう暗くなってきたしさ」
  気のない返事をして、公園内の時計に目をやった。
  日が長くなってきたとはいえ、まだ暗くなるのが早い。
  「あんたと帰る気はないから。一人でどうぞ」
  取り付く島なし、か。
  小さく溜め息をついて、ベンチから立ち上がる。
  「…じゃあな。おまえもさっさと帰れよ」
  何も言わない筒井を見下ろして、家へと歩き出す。
  公園の出入り口まで行って振り返っても、筒井は相変わらずベンチに座ったまま、うつむいていた。