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カラオケに行く気にはならなかったけど、することもない。かなり暇。
家の近くの本屋で新刊コーナーを眺めて。何も面白そうなものがないから、今度は窓際の雑誌コーナーに
視線を移した。
「あれ…」
店の窓越しに、筒井が一人で歩いているのが見えた。
なんだ。あいつの家、ここら辺なのか。
「……」
雑誌コーナーを素通りして、さっさと店を出た。
俺、かなり暇なんだよな。やることないしさ。
おまけに筒井は俺の家と同じ方向に歩いて行くし。
途中まででも、あとをついて行ってみようか。
前を歩く筒井は、振り向くことなく進んでいく。
まぁ、振り向かれても困るんだけど。
公園の手前の曲がり角で、俺は立ち止まった。
筒井を追いかけるのも、ここまで。この角を曲がって少し行った所が俺の家。
最初から、家を素通りしてまでついていく気はなかったし。
車が角を曲がっていってから、歩き出す。
でも、公園に入っていく筒井が視界に入り、すぐに足を止めた。
広場を横切って木の下のベンチに座る彼女を眺めたあと、俺はまた歩き出した。
「いつまでそうしてんの?」
暗くなってきているせいか、公園に人影は少なかった。公園から出て行こうとしている子供の他は、砂場に
うずくまっているのが2人だけ。
「…なんでいるのよ」
ベンチの横に立つ俺を見上げた筒井は、睨むように目を細めた。
今朝、教室でにこやかに挨拶をした筒井とは180°雰囲気が違っている。
「見かけたから」
そう答えながら、筒井の鞄を挟んだ位置に俺も座った。
「さっさと帰れば」
広場へと投げていた視線を、不機嫌な声の方に移す。
「なんで?」
俺の返事が気に入らなかったのか、筒井はますます目を細めた。
「あたしは一人でいたいの。ほっといてよ」
いや、俺もほっとこうと思ったんだけどさ…。
一度家には帰ったんだ。着替えて、柄にもなく勉強でもしようかと思ったら、コンビニに寄るのを忘れてたの
に気付いて。
家を出てこの公園の前を通ったら、まだこいつがベンチに座ってた。
俺がそう説明しても、もちろん筒井の表情は和らがない。むしろ不機嫌さが増していく。
今朝のこともあって、気になってたのもあるんだけどさ。
寂しそうな表情で座ってたから、なんて言ったら…もっと怒るんだろうな。
「筒井さんさぁ、みんなの前で挨拶してたときと雰囲気違ってんだけど」
「……」
「今朝のにこやかさはどこ行ったよ」
「……」
「おーい」
「……うるさい」
低い声で言って、横に座る俺をきつく睨みつけた。
「あたしにかまってないで、さっさと帰りなさいよ」
「おまえも帰ろうぜー。けっこう暗くなってきたしさ」
気のない返事をして、公園内の時計に目をやった。
日が長くなってきたとはいえ、まだ暗くなるのが早い。
「あんたと帰る気はないから。一人でどうぞ」
取り付く島なし、か。
小さく溜め息をついて、ベンチから立ち上がる。
「…じゃあな。おまえもさっさと帰れよ」
何も言わない筒井を見下ろして、家へと歩き出す。
公園の出入り口まで行って振り返っても、筒井は相変わらずベンチに座ったまま、うつむいていた。
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